第10章 翼の花

◆シーンプレイヤー・レイア 〜翼の花〜
GM:君たち三人と対峙するウェルファス。
だが、彼は不意に笑い声を上げる。
「…ふふふ…はははははははッ!
いやいや、見事だよ諸君。まさか私がここまで追い詰められるとはね」
そう言いながら愉快そうに拍手をしている。

メドウ:余裕ぶったその行動に、何か不気味なものを感じる。

レイア:気が触れた、と言う訳ではあるまい。
奴のことだ、まだ何か切り札を持っているのだろう。

アルス:まだ策はあるということでしょうな。

GM(ウェルファス):「確かにここまでは私の完敗だ。だが、君達なら分かるだろう?
そう…私にはこのための“切り札”の策をすでに張っていたんだよ」
そうウェルファスが宣言した瞬間、君達は周囲に異常な力が集まっているのを感じる。

『ばじぃぃぃぃん!!』
雷が爆ぜるような高い音。それは空間が閉じる音。
メドウ達の周囲を囲むように雷の磁場により空間が形成されていた。
それはまさに雷の檻とも呼べる超圧縮された力に雷の塊。そしてこれこそが――

GM(ウェルファス):「私の持つ天術の中で最高ランクの天術、<絶雷檻(ヴァイル・カティウ)>だ。
メドウ。お前がシア達と戦闘をしている間に私が何もしていなかったとでも思ったか?
すでにお前たちの周囲を囲むようにこの天術の展開を完了させていたのだよ」

レイア:「細工は流々って訳か…ッ」

GM(ウェルファス):「そう、すでにお前達は我が天力によって構成されて雷の檻の住人だ」

メドウ:「…流石だ」
敵の事ながら、あまりの周到さに感嘆する。これは不味い…。

アルス:「さすがにあの状況で、これの対策は無理ですねぇ」

GM(ウェルファス):「その超圧縮された雷の檻はわずかな衝撃で極大の爆発を起こす。
ここでお前たちの死を見るのも一興だが、生憎と私にはエデンを滅ぼすという仕事がある」
そう言ってウェルファスはシアとトゥナの方へ手を向ける。
そして、次の瞬間には二人は倒れていた地面から姿を消しどこかへと転移をされる。
「あいつらにもまだ役目があるしな」

メドウ:「…くッ!」 シアとトゥナを、またウェルファスの手から開放することが
出来なかった事に酷く悲しみをおぼえる。

GM(ウェルファス):「さて、では私は『不可侵の卵(シークレット・クラウド)』へと向かうとするよ。
お前達はそこで仲良く…爆死するがいい」
そう言ってウェルファスは“ぱちんっ”と指を鳴らし
ウェルファスは『蒼剣(ジルナード)』と共にその姿を消す。
そしてそれに反応するように君達を囲んでいる<絶雷檻(ヴァイル・カティウ)>が
激しく力の脈動を起こし始める!

レイア:「…糞、どうすれば…?!」

メドウ:この状況、自分はこれを克服することが出来るのか…?

アルス:「大人しく死んでたまりますか。せっかく体の支配権を取り戻して、
これからは心置きなくアリスちゃんとあんなことやこんなことができるというのにっ!」

GM:焦る君達とは裏腹に君達の周囲の雷は収縮をしていく。

そして収縮が限界に達した瞬間、メドウ達の周囲にあった雷が超高密度の爆発を起こした!
だが、刹那。
メドウ達は眼前に無数の氷の蝶が舞ったのを見た。
その蝶はメドウ達の身を守るように包み、そして――――

どごごおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉんッッ!!!!

超高密度の爆発は起こった。

GM:だが、君たちはハッキリと感じる。
その爆発が収まった後、自分達の体が無傷な事に。

レイア:「リウ?!」

GM:そのレイアの声に返すように君の耳に聞きなれた一人の女性の声が聞こえる。
「…無事だったみたいだな。レイア」
そこには先ほどの爆発に巻き込まれたのか、体中ぼろぼろのリウの姿があった。
「…これで、借りは返したぞ…」そう言って彼女はゆらりと倒れる。

レイア:「リウ!」駆け寄って抱きとめる!

GM:抱き止めた瞬間、感じる。
彼女の暖かさ、それが…次第に冷たくなっていく感触に。

レイア:「お前…何で…こんな…!」
彼女の体が冷たくなるのを少しでも止めようと強く抱き寄せる。

GM(リウ):「…さあな。ただ、お前を守りたいと思った…だけだ…」

レイア:「馬鹿野郎…。それでお前が死んだら…」
それはいつか見たあの時の『彼女』の表情。
また助けることが出来ないのか?
彼女に救ってもらい自分だけが生き残るのか?

アルス:『彼女を治して!』雪羽に心話で伝える。

GM(雪羽):『……これは…無理だ…』
雪羽は冷静にリウの体を見てそう言う。

アルス:『無理って…!』

GM(リウ):「……私はな、レイア。…死から生まれた偽りの命だ。」
だが、それでも分かったんだ…。私は私だ。
だから…私は私の『生』を残したかった……この、命が尽き果てるまで…」

レイア:「…お前は…立派に生き抜いたよ…」

GM(リウ):「私はきっと…私の生をお前の中に残したかったんだ、レイア…。」
私の命は…お前の中にある。ただ、それだけで十分だ…」

レイア:「リウ…!」
消えて欲しくない。やっと掴んだ温もりがその瞬間消えるなんて嫌だ。

GM(リウ):「…涙を流すな、レイア」
その瞬間、リウはそっと君の頬に手をおいた。

レイア:「…え?」 頬を触る。
自分でも気づかぬ内に泣いていたのか。

GM(リウ):「お前の涙は…温かいな…」

レイア:「お前だって…暖かいよ…」

GM(リウ):「――不思議だな。遠い昔にもこんなことがあったような気がする…」
どこか遠くを見るようにリウは言葉を続ける。
「その時に…大切な誰かに言おうとして言えなかった言葉…。
――ああ、そうか。私はそれを伝えるために――今、ここにいるんだな」
彼女は君の瞳をじっと見つめてその言葉を伝える。

「レイア――お前を好きになって、良かったよ」

そして、彼女は静かに――目を瞑った。

レイア:「……俺もだよ」
目を瞑り、そして二度と微笑まないだろう彼女に。
彼女は何の曇りも無い笑みを浮かべ君の腕で眠っている。
そっと口付けをした。

彼女と初めて交わした口付けは――冷たい、死の味がした。

GM:リウの命はレイアの腕の中で尽きた。
だが、状況は君達に感傷の時間を与えなかった。
『ごおおおおおおぉぉぉんッ!!!』
そんな空を突くような衝撃と音と共に天空に浮かぶ
『不可侵の卵(シークレット・クラウド)』から異常な力が放出される。

レイア:彼女をそっと横たえて立ち上がる。
「行こう。俺達には感傷に浸っている時間は無い」

GM:そう、レイアが宣言すると同時だった。
見るとこのエデンがゆっくりと降下し始めたのが分かる。
いや、それだけでは無い。この空中大陸でもあるエデンが
各地で分断されて、地上へと落下し始めていている。
天空に浮かぶ『不可視の卵(シークレット・クラウド)』、そこからこのエデンに向けて
超重力による圧力が掛けられ、浮遊大陸が沈み始めているんだ。

アルス:そんなふうに崩壊させる兵器だったのか?!

GM:そうなの(笑)
おそらくは重力などを操作してこの大陸の構成そのものを崩壊させているのだろう。
このままいくとエデンは地上への落下スピードが加速して隕石のよう地上に降り注ぎ
大地を大きく壊滅させることも分かる。

アルス:てっきりベル○ラントやラ○ュタの雷みたいな兵器だと。

メドウ:このまま誰も救えずに終わるのか?
僕は…こんなものが正しい事なものか。こんなものは馬鹿げている。
ウェルファスを、止めなければ。
焦りに足をもつれさせつつ、『不可侵の卵(シークレット・クラウド)』の方へ歩いていく

GM:そう、もはや時間の猶予は無い。

レイア:メドウの横に並び、共に前へ進む。

アルス:「あう、アリスちゃんといろいろしたいところですが、それは帰ってからたっぷりということで。
言いたいことも沢山ありますし」 ひらひらと手を振って進む。

GM(アリス):「勝手に言ってろ。ぷんっ」

メドウ達は決意を胸に今、天空にて、その異常な力を放出する
『不可侵の卵(シークレット・クラウド)』へと向かう。
そこは最期の決戦の地へ。
まさにエデンの、いや世界の命運をかけた壮絶なる最後の戦いの幕開けだった。


◆シーンプレイヤー・トゥナ 〜命の意味〜
――遥か空に浮かぶエデン帝国。
今やそのエデンは空の座から落とされ始め、都市を基盤となっている空中大地は
崩落・分離を繰り返し、そこに住む多くの人々は困惑と恐怖に慄いている。

すでに眼下に世界の大地が見え、エデンの中心都市すらも
その大地の重力へ引かれ崩落の時を迎えようとしていた。

それをかつてエデンのあった空より遥か上空より全てを見下すように存在する一つの大きな灰色の卵。

『不可侵の卵(シークレット・クラウド)』

かつて、この世界に存在した超古代の技術を有した『星の民』と呼ばれる者達の最古の破壊兵器遺産。
その内部に三人の人物がいた。
一人はこの事態を引き起こしたエデン消滅を望む男・ウェルファス。
そして、彼に作られた二人の『禁忌の子(サクリード・チルドレン)』
第一の数字を持つシア。そして第三の数字を持つトゥナだった。

「さすがはエデン。『不可侵の卵(シークレット・クラウド)』を
ただ発動させただけでは完全に崩落させるには時間がかかるか」

そう言うウェルファスだったが、彼の瞳はその眼鏡の向こうで笑っているのが見て取れる。

「だが、奥の中核部にセットした『蒼剣(ジルナード)』の制御装置を
限界破壊(オーバーロード)させれば、数分と持たずそのエデンも消滅する」

その事を口に出し、思わず歪んだ笑みを浮かべるウェルファス。

「…しかし、その前に邪魔な奴らが来ている、か」

ウェルファスは先ほど、この『不可侵の卵(シークレット・クラウド)』へと
侵入を果たしたメドウ・レイア・アルスの姿を思い出し、そう呟く。

「まあ、奴らに対しての策もすでに万全。
わずかの数分さえ稼げれば、この『不可侵の卵(シークレット・クラウド)』もろともエデンも奴らも消える。
…なあ、トゥナ」

自らの狂気のマスター・ウェルファスにトゥナはそう言葉を投げかけられる。

「……何をすればいいのですか」

先ほどのメドウとの戦いで自分もシアもすでに満身創痍。
だが、それでも目の前の男はそんな自分達を最後まで使い捨ての道具として利用しようと考えている。
だけど、自分はそんな彼の命令にも絶対逆らえない。
それを理解し、トゥナは目の前の彼の命令を待つ。

「貴様に最後の命令だ」

「……はい」

「死ね」

「………え?」

どすんッ!!

その言葉を理解するより早く、
トゥナの身体…その胸、首筋、足、腕、それら全てに雷鳴の鋭い刃が深々と刺さっていた。

「―――ごぶっ」

口から大量の血を流し、そして瞬時に消滅した雷鳴の刃が刺さっていた空洞となった場所からも
多くの血を出血させ、トゥナはその場に倒れた。

どさっ…。

身体全身が鉛のように重い。目の前は自分の流した赤の景色しかない。
トゥナには分かる。自分があと数分足らずでこの世から消える感覚が。

「……ウェルファス。なぜだ」

海の中から聞いているような感じでシアのそんな声が遠くから聞こえた。

「これでいい、これで私の計画は成就する」

「…………」

「さっさと来い、出来損ない。全てを終わらせるぞ」

二つの足音が遠のくのをトゥナは感じた。
意識も感覚も、全てがまどろみの様に思えてきた。

「……メ…ドウ……さ……」

そんな自分の呟きも掻き消えそうになった時、
トゥナは自分に近づく三つの足音を聞いた気がした。


 
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