◆エンディングシーン・イオス 〜残されたもの〜
GM:ヴァルムオンド邸へと向かおうとするイオスへ駆け寄ってくる影がある。 その影は君の前まで来て、荒れた息を整え笑顔を浮かべて言う。 「―――おかえりさない。イオスさん。」 イオス:「セクエンツィア、追いかけてきたのか」 GM(セクエンツィア):「はい、イオスさんにおかえりを言いたかったですから。 …その亡骸、お父様ですよね」 君が背負っているレオードを見てセクエンツィアは言う。 イオス:「ああ、さすがにテラスト王国の人に見せるわけにはいかないからな。 このままヴァルムオンド邸に埋葬するつもりだ」 GM(セクエンツィア):「私も一緒に行っていいですか。」 彼女は伏せみがちな瞳で君を見る。 イオス:「ああ、こちらからお願いしたいくらいだ」 GM(セクエンツィア):「はい、ありがとうございます。イオスさん」 言ってセクエンツィアは君の隣を歩く。 君の隣りを歩くセクエンツィアは今まで以上に、君へたくさんの事を話し、そして聞いてくる。 イオス:ああ、嬉しいシーンだ。 GM(セクエンツィア):「でもすごいですよ、イオスさん。 テラスト王国中はイオスさんたちのことで話題持ち切りでしたよ」 穏やかでそして心安らぐ時間。 君の隣にいるセクエンツィアは笑顔を浮かべ、じっと君を見ている。 それはまるで―――君の姿をその脳裏に焼き付けるように。忘れないようにするかのように。 イオス:「うーん、あまり有名になりすぎるのも困るんだがな…」 GM(セクエンツィア):「―――あの、イオスさん」 イオス:「ん?どうした?」 GM:不意に君へが声をかけるセクエンツィア。 「――――――」 だが。 「いえ、何でもありません」 そう言って再び君へ笑顔を向けるセクエンツィア。 その笑顔にイオス、君はわずか引っかかりが生まれるようだった。 イオス:「何だ、全部終わったというのに歯切れが悪いじゃないか」 GM(セクエンツィア):「なんでもないですよ」 さて、ではここでGMとしてぶっちゃけます。イオス君、君の腕に刻まれている死の刻印は レオードを倒したはずなのに消えてません。 イオス:そりゃねぇ、もう自分の力にしちゃったからね。 GM:や、そうじゃなくって(笑)。核であるはずの刻印が消えたはずなのに “その贄であった刻印が消えていない”。と言う事はつまり……セクエンツィアの痣は? イオス:ちょ、そっちも消えてないのか?! そこでばっと自分の刻印が消えていないことに気づく。 「まさか…セクエンツィア、君の刻印は…消えていないのか…?」 GM(セクエンツィア):「―――っ!」 イオス:「セクエンツィア!!」 セクエンツィア:君のその言葉を聞き、前を歩いていた彼女の足が止まった。 イオス:「まさか…そんな…」 GM:イオス君。君が彼女の服をはだき、その胸を見るとそれは核心となった。 そう、セクエンツィアの胸には―――死の痣がある。 そして、それはもう終わりを告げようとしていることも分かる。 「…………ご、ごめん…な…さい……」 彼女はか細い声で君から視線を外し、そう呟く。 イオス:「君のおかげで俺は変われたんだぞ! 断ち切るしかないと思っていた呪いを全て希望に変えて!本当の自分も取り戻した! これからは一緒に!一緒に歩いていこうと言ったのは君じゃないか!それなのに!」 GM(セクエンツィア):「私の事はもういいんです。だって、イオスさんはもう立派に 世界を救ったんですから、もうこれ以上誰かと戦う必要は――!!」 涙を流し、セクエンツィアは言う。それは彼女の本心。己を犠牲にしてでも護りたかったもの。 そう、君をこれ以上戦わせたくは無いという想い。 この先にある戦い―――その空しさを“真実”を唯一知っているのは世界中で彼女だけだから。 イオス:「世界を救ったから何だ!君を救えなくて何が希望だ!何がエスペランサーだ!」 GM(セクエンツィア):「……イオ…ス……様…」 涙を流し、セクエンツィアは君を見る。 イオス:「こんなに弱い俺を、ずっと守ってくれると言ったじゃないか…」 GM(セクエンツィア):「…ずっと…はい…ずっと一緒にいたいです……イオス様と……」 だけど、と言って彼女はその瞳に涙を堪える、一粒一粒流していく。 イオス:「俺はもう、君に心を寄り添わせないと生きていけないと言ったじゃないか…」 GM(セクエンツィア):「―――はい…そうですね。 私たちは二人で生きていかなきゃいけないんですね…」 イオス:「そうだ、ずっと二人一緒に生きていくんだ」 GM:彼女は寂しげな笑みを浮かべ君から離れ、一枚の手紙を差し出す。 「本当は―――渡したくなかった」 イオス:手紙を受け取る。 GM(セクエンツィア):「私は知ってしまったから…あの人の“真実”に…」 手紙を渡し、涙を拭ったセクエンツィアは寂しげな優しげな微笑みを浮かべ言う。 「――イオス様、いってらっしゃいませ」 イオス:「セクエンツィア…?」 手紙を読むよ。 「ヴァルムオンド邸で待つ。 全ての真実はそこにある。 ――――イクフォード」 GM:手紙にはその簡潔な文章だけが記されていた。 イオス:「イク…フォード…。まさか…」 GM(セクエンツィア):「イオス様、必ず…帰ってきてくださいね」 そう、最後にセクエンツィアは君を見て呟く。 イオス:「――ああ、俺の帰る場所は、君の傍だ」 ◆エンディングシーン・フィリア 〜彼女が見つめる未来〜 GM:では次はフィリアさん。君の眼前には父・シュヴァルストがいる。 彼は帰還した君を見て一言を言う。「…よく帰った、フィリア」 フィリア:「なんと呼べばいいのかわかりませんが…私は『お父さま』と貴方を呼びたい。ですので―」 前に進んで。「ただいま、お父さま」 GM(シュヴァルスト):「ああ、おかえり」 エデン帝国参謀・シュヴァルストは普段なら見せないその笑顔を君へ向ける。 フィリア:すこしだけ、きょとん、としてみよう。 「初めて、見ました。お父さまの笑顔」 GM(シュヴァルスト):「…ふふっ、私とて人だ。たまには笑うこともある」 そう言葉を続け、シュヴァルストは君を見てある宣告をする。 「フィリア=クーへ。今日よりお前は私の剣としての役割は終わりだ。」 フィリア:「……」 GM(シュヴァルスト):「これからは――私と同じ『王』の座に着き “私と共”にこのエデンを、世界を護って欲しい。良いかな?フィリア」 笑みを浮かべ、君の父はそう言う。 フィリア:「……はい!」 めっちゃいい笑顔をお父さまにみせてやろう。 GM(シュヴァルスト):「では、私はお前の王の任命の準備を整えるとしよう」 そう言って君の頭に手を置く。 フィリア:照れる…。 GM:それはまるで仲の良い親子の姿そのもの。 「だが、その前にフィリアよ…。お前にはこの物語の結末を知る必要があるかもしれないな…」 言ってシュヴァルストはどこか遠くを見るように言葉を続ける。 「――ヴァルムオンド邸へ行くが良い。いや、行くか行かないはお前の自由で構わない。 これはもはや任務でもなんでもない。お前の意志、それに委ねよう」 フィリア:「…私が知るべき物語。イオス・ヴァルムオンドとその父、ですね」 GM(シュヴァルスト):「…そうだな」 フィリア:「結末ではありますが、おそらくイオスの新しい物語の始まりかもしれません。 私は、あいつの始まりを見に行きたい」 GM(シュヴァルスト):「ああ、そうだな。お前の…イオスの仲間として共にいた フィリア=クーへが知るべきことだな」 「行くがいい、最後の結末を知るために」 そう言って父・シュヴァルストはフィリア=クーへへ空間水を渡す。 「はい、行ってまいります」 空間水を受け取ったフィリアは笑顔と共に最後の結末の場へと赴く。 もう、少女に迷いは――ない。 ◆エンディングシーン・セレナス 〜大切な人〜 GM:一方、王城へと入ったセレナスは一つの部屋へ案内される。 そこには君が最も会いたい人物達が揃っていた。姉レーネ、ロトゥス、そしてテナ。 セレナス:「姉さん!テナ!!それから、 ロトゥスさん!!」 GM(テナ):「――セレ兄ちゃん!!」 テナは君を見ると一目散に走ってその胸に飛び込んでくる! セレナス:しっかりと抱きしめます! GM:一方、ロトゥスは「………オレの名前を呼ぶまでの間は何だ?」 と、なにやら不機嫌そうにロトゥスは(笑) セレナス:ロトゥスをちらちら見ながらテナの頭をなでなでします(笑) 「テナ、体の具合はいいの?」 GM:で抱きしめられたテナは君に甘えるようにべったりしながら 「うん!テナね、すっごく元気になったよ!ねえねえ、セレ兄ちゃん!また一緒に音楽をしようね〜!」 見た目にもすっかり元気を取り戻したテナは、かつて君にもらった楽器をかざして言う! セレナス:「うん、勿論だよ!」 GM(レーネ):「それじゃあ、セレナス。久しぶりに私ともどうかしら?」 そう言ってレーネも自分の楽器を手にとって君とテナの下へ。 セレナス:「姉さん、姉さんも良かった…!」 GM(レーネ):「ええ、セレナスのおかげでこの通り、痣も消えたわよ♪」 そう言って危うい胸を見せてくる。 セレナス:「ええ!ちょっ、見せなくていいよ姉さん!」 顔を真っ赤にしながら顔を背けます(笑) とりあえず、姉さんにもらった大切なピアノを取り出します。 GM(テナ):「む〜〜…セレ兄ちゃん!テナと一緒に音楽〜!」 君とレーネの仲の良さにやや嫉妬したのかぷ〜と頬を膨らましてテナがそう言う(笑) 「それじゃあ、三人で弾きましょう」 「うん、ヴェルトーヴェン 交響曲 第3番変ホ長調、《英雄》」 セレナスのその宣言と同時にセレナス、テナ、レーネによる演奏が始まる。 それは心地良い、聞く者全てを魅了する美しくそして優しい旋律。 目の前でセレナス達の演奏を見ているロトゥスも普段では見せない優しい笑みすら浮かべている。 彼らの流すハーモニーはテラストの王城にいる者全てに響き渡る。 あるものは足を止め、その旋律に耳を傾け あるものは君達の姿を確認しようとこっそり部屋を覗き。 これが後にテラスト三奏士と言われる者の誕生でもあった――。 セレナス:「こうして、穏やかな気持ちで詩を奏でられるのはいつぶりだろう…。 すごく、すごく、気持ちよくて、少し、照れくさいかな」 GM(ロトゥス):「見事だな、お前にしては随分うまいじゃないか。セレナス」 ロトゥスは今や確実にセレナスを認め、そう君を評価する。 セレナス:「ふふ、ロトゥスさんが僕を褒めてくれるなんてね。 でもこの曲は一人では完成しない、姉さんとテナと折り重なって初めて出来る旋律なんだ」 テナ:「あれ?ねぇねぇ、セレ兄ちゃん」 そこでふと何を思い出したようにテナが君のすそを握る。 セレナス:「どうしたの、テナ」 そっと頭を撫でながら尋ねます。 GM(テナ):「アドルお兄ちゃんはどこに行ったの?」 無邪気な笑みのまま、君へそんな疑問を――。 セレナス:ほんの少しの躊躇の後、それでもはっきりと答えます。 「…アドルさんは、星になったんだよ。遠い遠い所に佇む、一つの大きな星に。 空高くから今も、僕たちを見てくれている。あの穏やかな笑みで。声を上げても届かないかもしれない。 けれども、音楽は、風に乗って高く高くどこまでも舞い上がって、遠い星のアドルさんにまで届くんだ。 だから奏でよう、精一杯僕たちの詩を、僕たちの思いを」 GM(テナ):「…お星様に…?」 その意味する言葉が分からず疑問を口にするテナ。だが、やがて笑顔を浮かべ 「うん!アドルお兄ちゃんのいるところに歌が届くようにテナ!一生懸命歌うよ〜!」 自分を大切にしてくれた兄へ自分の歌を届けたい。その純粋な想いのままテナはそう言った。 セレナス:それを聞いて、そっと目から涙を零します。 「うん、テナが一生懸命歌っている姿を見れば、きっとアドルさんも喜んでくれるよ…」 GM(ロトゥス):「…セレナス」 と、そんな君へロトゥスが近づいてくる。 セレナス:「ロトゥスさん…」 GM(ロトゥス):「気づいているかもしれないが…イオスがこの国を発った。 俺もウォーレム族として各地の魔族と戦う使命があるため、もうここを発たなければいけない。 しばらくはお前とも会えないだろうな」 セレナス:「そっか…。皆、ずっと一緒にっていう訳にはいかないよね」 GM(ロトゥス):「…ま、お前と共にいた一月、色々とイライラする事もあったが存外悪くなかったぞ。 またいつか、どこかで会おう。セレナス」 セレナス:「うん、きっとお互い、望まない時に会える気がするよ。 それまでにくれぐれもつまらない事で命を落とさないようにね」 GM:君のその言葉へはロトゥスは笑顔で返し、君へ一本の瓶を投げる。 セレナス:「これは…?」 GM(ロトゥス):「セレナス。イオス=ヴァルムオンドの仲間であったお前ならば行くべきだろう。 イオスは今、本当の最後の戦いを迎えようとしている。そこにはお前の…仲間の力が必要だろう」 セレナス:「…ありがとう、ロトゥスさん」 今度は正面からはっきりと、心からのお礼を述べます。 GM(ロトゥス):「――ではな、セレナス」 セレナス:「うん、お互い達者で、今度会う時には背丈でも上回ってみせるからね♪」 GM:そして君の隣りにいたレーネとテナもまた。 「いってらっしゃい。セレナス」「セレ兄ちゃん〜!また一緒に音楽しようね〜!」と声をかけてくれる。 「ありがとう、姉さん、テナ。また帰ってきたら次は三人で、いや皆で楽しく平和な時を過ごそうね。 それでは―――行ってきます」 その笑顔と共にセレナス=グラングーレは友のいる物語最後の舞台へと向かう――。 ◆フィナーレシーン 〜痛みに隠された優しい真実〜 ヴァルムオンド邸――。 イオス=ヴァルムオンドはそこへ戻ってきた。 季節はすでに冬に入ったのだろう。 見ると粉雪が舞い散り、目の前の瓦礫と化したヴァルムオンド邸は雪に積もっていた。 そして、この地に戻ったイオスを迎えたのは、共に戦い続けた二人の仲間の姿。 イオス:「フィリア、セレナス…」 フィリア:「イオス、お前の始まりを見せてもらいに来た」 セレナス:「イオス君、君は一人じゃないよね」 軽く微笑みます。 イオス:「揃いも揃って物好きが…」 ふっと微笑む。 GM:では、君達はそれまでと同じように三人揃いヴァルムオンド邸へと向かう。 手紙に指定された場所はかつてヴァルムオンド邸の庭だった場所。 君とセクエンツィアとそしてイクフォード。三人の想い出が詰まった場所。 だが、そこにはかつての優雅な庭の姿は無くただ荒地のみが広がっていた。 そして、そんな荒地で君達を待つ一人の男。彼は君達から背を向け、瓦礫の岩に腰を掛けていた。 「―――よお、来たな。イオス」 イオス:荒地にできた穴にレオードの亡骸を横たえ、ゆっくりとそっちを向く。 「イクフォード…」 GM:イクフォードはいつもと変わらない口調のまま だがどこか今までとは違う別の雰囲気を纏い口を開く。 「さてと、まずは何から話すべきか…」 一拍考えた後にイクフォードは言う。「そうだな、まずは『真実』から話すか」 イオス:「………」 GM(イクフォード):「――イオス」 名を呼び、イクフォードは告げる。それはずっと隠されていた、この物語の真実。 「レオードは…お前の父は、世界中の何よりも―――」 「お前を――――愛していた」 イオス:「…!」 GM(イクフォード):「…昔、一人の男がいた」 昔話しを語るようにイクフォードは言う。 「その男は生まれながらに完全な力を持っていた。 それはそうだ、その男は魔王の呪い『死の刻印』その核の持ち主だった。 男はその呪いを継承していたが故に常にその呪いの影に恐怖していた」 どこか遠い記憶を辿るようにイクフォードは続ける。 「魔王の呪いは尋常なものではない。常人であれば精神を侵されて ただの殺戮者として堕ちるほどだからな。まして、その『死の刻印』は自分のために 『贄』となるものがこの世界に生まれてしまう。それを恐れ、彼は自分がこの世界に 存在してはいけない存在と自覚し、自分を殺してくれるものを探し続け殺戮を行った」 イクフォードは続ける。 「だが、あるとき彼は一人の女性と出会った――女性は彼に生きる意味を与えた。 共に生きようと、生きる意味の無い命など無いと、そう言った」 憂いを帯びた声のまま彼はその続きを話す。 「そう、お前と――セクエンツィアちゃんのようにな」 イオス:何かパズルのピースが一つずつはまっていくような感覚をおぼえる。 GM(イクフォード):「だが、この悲劇の物語の始まりはここから始まったんだ。 その女性は――殺された、同じ人間にな。男は復讐を誓おうとするが女性の言葉に自らを取り戻す。 だがその後、男は自分に課せられた運命を知る事となる。女性は男の子供を身篭っていた。 男は子供だけでも助けようと女性の腹を裂いた。そこには“双子”の男の子がいた。 一方は生まれることなく死んでいた。だがもう一人は――生きていた」 それはこの物語の“最初の幕開け” 「しかし…その赤子の身体には忌むべき刻印が刻まれていた。即ち――『贄』の刻印。 男はその時、決断した。自分の子供を、この呪いから必ず解放すると。 それが女性との最後の約束――“自分達の子供を護る”という約束だ」 イクフォードは告げる。 「そして、この物語は始まった。女性の名はソラ、男の名は――レオード=フォン=ヴァルムオンド。 レオードはお前に殺されるために、今まで生きていた。 全てはお前を死の刻印から解放するために」 イオス:ぐっと唇を噛む。(馬鹿野郎…) GM(レオード):「レオードがなぜお前に冷たかったのか、なぜお前に親として接しなかったのか。 全てはお前に――憎まれるためだ。お前に憎まれ、世界の敵として、魔王として死んでいくため」 「全てはお前の為―――だったんだよ」 ◆幕間シーン 〜ただ、それだけで〜 ――五年前。その日、レオードはいつものように、この地を治める公爵としての勤めをこなしていた。 『――コンコン』 その時、不意に部屋のドアをノックする音が響く。 「イオスです」 扉の向こうから聞こえた、息子の声。 「……入れ」 全ての感情を殺し、冷徹な声でレオードは言った。 「何の用だ」 中へ入り、イオスは即座に持っていた合格証明書を開き、気圧されないように口を開く。 「合格したぞ、世界最高峰・最難関の『銀の学園』。紛れも無いトップでだ」 「そうか」 (――お前ならば、当然だ。イオス) その時、父であったレオードの胸の内にあったのは自らの息子を認め、慈しむ想い。 (お前の実力ならば、そこでも必ず力を発揮し、そして、更に才能を磨いていけるだろう。 父として、お前の成長に対し喜びを感じないことなど、ない。だが―――) 「用が終わったのなら、出て行け。仕事の邪魔だ」 しかし、口から出したのはそんな突き放すような言葉。 それを聞き終えたイオスは去り際にぽつりと言葉を漏らす。 「…今日は何の日だったか覚えているか?」 (忘れるわけが無い――) 心の中でレオードは返す。 (お前が生まれた日を、ソラがお前に命を与えた日を、お前の―――誕生日を) 『ばたんっ…』 静かにイオスが部屋から出て行った音を聞き、レオードは自分以外存在しない部屋で呟く。 「…私はお前によって憎まれ、殺されなければならない存在…。 お前の誕生日を祝う事など、出来るはずが…ない」 それはレオード=フォン=ヴァルムオンドが抱き続けた真実の想い。 それを口にし、僅かな沈黙の後に部屋の扉を開け、一人の青年が入ってくる。 「…また何も言わなかったんですか」 それはイオスの使用人にして親友の青年、イクフォード。 彼は部屋に入るなり、そうレオードへと問いかけを続ける。 「本当にこのまま最後まで何も言わないんで、いいんですか。 せめて、再度に一度くらい父親として接しては!――貴方だって本当は!」 「―――今更、父としてあいつに接してどうする」 イクフォードの言葉を遮るようにレオードは口を開く。 「私はあいつによって世界の敵として魔王として殺される存在だ。 親としての情を与えても…ただ、あいつに迷いを抱かせるだけだ」 レオードの内にある想い。その悲壮な想いを秘めた彼の言葉にイクフォードは思わず黙り、ただ俯く。 「…だけど、貴方のその想いに対して何の報いも返らないじゃないですか…」 「――報いなら、もう十分に受けている」 「…え?」 レオードが出した優しい声に虚を突かれたイクフォードは思わず顔を上げる。 そこには普段ならば、決して浮かべることの無い優しい笑みを浮かべたレオードが 優しい口調のまま――。 「――あいつが生きていてくれている。ただ、それだけで、十分なのだから」 |