アヴェスター教会総本山編 第10章 約束と誓い

◆クライマックスシーン1 〜約束と誓い〜
GM:では教皇の間の扉を開いたアルジェント。
そこで君が見たのは以前見た教皇の間ではなかった。
真っ白なただ無限の地平線が存在する異空間とも呼べる場所。
そして、そこにはディゼル・サクスも存在し、君達もまた目を開く。
君達は眠りの皇帝ベアトリーチェの人形を倒すと同時に彼女の身体から
放たれた眩い光に包まれシーンが終わりました。

ディゼル:そういや画面白転でおわってたんだった(笑)

GM:そして次に目を開いた時、そこはこの真っ白な空間が広がってり
そこにはディゼル・サクス・アルジェント君達三人の姿と――
ベアトリーチェの姿があった。

アルジェント:うお、いるのか。

GM(ベアトリーチェ):「久しぶりね、アル、」
彼女は開口一番微笑みを浮かべてそう言う。

アルジェント:えっと、本物だよね?

GM(ベアトリーチェ):「失礼ね〜、ちゃんと本物よ〜」

アルジェント:メタな。

ディゼル:アルジェントにおかあさんと合わせるための演出だぜ、きっと!

GM:その外見は美しい女性でありながら、どこか少女のような幼さを残す性格。
ディゼルもサクスも分かる。さきほどまでのベアトリーチェとはまるで違う。
目の前にいるのは“本物の”ベアトリーチェだと。

アルジェント:「母さん…?本物の…?馬鹿な…そんなことは…」

GM(ベアトリーチェ):「まぁ、信じられないのも仕方ないわね。
残念ながら、今の私はこの空間でないと存在を維持できないの。
それもあとほんの僅かだけ…色々と話したいことはあったけど
こうして大きくなった貴方に会えて私は満足よ。アル」
笑顔を浮かべてベアトリーチェは成長した君を見る。

アルジェント:「母さん…。もう…会えないと思っていたのに…」

GM(ベアトリーチェ):「…私もよ…でも、こうして会えたんだから湿っぽいのは無しよ」
そう言ってベアトリーチェはディゼルとサクス達の方を向く。
「ディゼルもサクスもありがとう。私をクリストファーから解放してくれて」

サクス:「主…お前はどこまでも強い人間だな…」

ディゼル:やっぱり最後になるよね、この場面でお母さんに会うの。

GM:そうだね。もうこれが本当に正真正銘の最後になるから言いたいことがあれば言うべきだね。

ディゼル:「母さん…僕が…僕が望んだこと…今思えば
母さんにとってすごく辛いことだったのかもしれない…」
彼女は最初からこの結末を思い描いていた。
「それなのにわがまま言って、また一緒に…過ごそうだなんて…」

GM(ベアトリーチェ):「ディゼル…そんな事ないわよ。
私も本当は貴方やアルやサクス、ラインや皆と一緒に過ごす日々を望んでいたわ。
わがままなんかじゃないわよ、貴方が謝る事は何一つないわ。むしろ、謝るのは私の方…。
私が眠りの皇帝だったから、そして貴方にその指輪を与えてしまったから…」
その瞳に悲しみの色を浮かべ、ベアトリーチェは君がしている指輪を見る。

ディゼル:「でも、この指輪があったから…。僕達はまた…こうやって会えたんだ。
それにね、母さん、僕会えたんだよ。もう一つの指輪を持つ子に…。
だから、そんなに悲しい顔しないでよ――」
そう言うディゼルの頬に流れるのは涙。

GM(ベアトリーチェ):「ディゼル…」
君が伝えようとしていること、その意味を全て受け取りベアトリーチェもまた
瞳から涙を零しながらも優しい笑みを浮かべる。
「…ディゼルは本当に強くなったのね。もう私がいなくても大丈夫なくらいに…」
母はそう君の成長を心の底より喜び涙を浮かべ言った。

サクス:「主よ、ひとつ聞きたかったことがある。
何より強く、何より気高かったお前が何故こうしてここにいる?
生を終え、こうして魂もこの世から尽きようとしている?
弱肉強食のこの世でお前は、弱かったから死んだのか?」

GM(ベアトリーチェ):「あはは、サクスったら、貴方は本当に最後まで
貴方らしい事しか聞かないのね〜」
笑いながらもベアトリーチェは君のその言葉へ答えを返す。
「そうだね、私がこうなったのは私の中にある弱さが原因だったから…。
だけどその弱さも私の強さの内なのよ」

サクス:「俺には分からない…。それなら、何故ここに俺はこうしてのうのうと生きている?
俺より強かったお前が死んで、俺が生きていることの説明がつかない……」

GM(ベアトリーチェ):「それは簡単なことよ、サクス。
私の弱さは大切な人を護ろうとした想いから生まれたとも。
それは弱点とも言えるわね。だけど私はこの弱さを誇りに思っている。
だって、そのおかげで私は護れたから、貴方やディゼル、アルの事をね」
それは即ち、君の生があるのは君自身だけでなく君を想ったベアトリーチェの強さがあったからだった。
「それに貴方は自分で言うほど弱くはないじゃない。
貴方のおかげで私の息子たちもこうして無事だったんだから。だからありがとうね、サクス」

サクス:「俺が、俺が本当に護りたかったのは、ベアトリーチェ、お前だ…!
主、一つだけお願いがある。主として俺に最後の命を、俺の生きる意味を与えてくれないか?」

GM(ベアトリーチェ):「…サクス…。なら、貴方に私が与えられる命は一つだけね。
貴方の命が終わるその瞬間まで精一杯生きること。生きる意味は生きてる限り見い出せる。
私の息子たちと一緒に戦うも、他の誰かを護る事も
もうこれからは貴方自身の意思で決めてなさい、サクス」

サクス:「……ふっ、相変わらず無理難題を押し付けるのだな。
ちっぽけな俺一人では答えを見出せそうもない。
そうだな…そうしたら、そこのお前の息子達を貸してもらうとするか。
この世界にお前の残した足跡を辿るうち、お前の言った意味が分かるかもしれない…」

GM(ベアトリーチェ):「うん、サクスならきっと見つかるわよ。
そして、と私の息子たちをお願いするわね」
笑顔を浮かべ、ベアトリーチェは君へそう言った。

サクス:「ふん、お前なら向こうの世界でもきっと幸せに過ごせるだろうな。
俺がいなくとも、きっと幸せになってくれるはずだ。
後はせいぜい、息子達との最後の時間を過ごすといい」

GM(ベアトリーチェ):「ありがとう、サクス」
そう言ってベアトリーチェは静かにアルジェントを見る。

アルジェント:「母さん…俺は…僕は忘れなかった。
母さんが告げたことを忘れなかった。星を見て、僕の空の星を護ると決めた。
護りたいんだ!僕の星を!だけど、僕の星はどんどん無くなっていく…。
どれほど対価を払っても、次々と星が流れていく…。
今だって!僕の空の母さんの星が流れるのを止めることができない!
教えてくれ…母さん。僕の手は…どれほど伸ばしても…星に届かないのか…?」

GM(ベアトリーチェ):「アル…」
君の言葉を聞き、僅かに寂しそうな表情をするベアトリーチェだが
「…そうだね。人の死、流れる落ちる星を止めることは誰にも出来ない。
それはきっと神様にも。…だけどね、アル。貴方が本当に望む星があるなら、
そしてその星を掴むために貴方が全てを投げ得るなら、きっと、届くわよ、貴方が望む星に――」

アルジェント:「…わかった。僕はもう手を伸ばすことを諦めない…だって――」

「僕には母さんの運命を切り開く力があるんだから」

GM(ベアトリーチェ):「うん。そうね。貴方は私が背負った運命を断ち切る力がある。
もう私の心配これで本当に終わりね」
そして、ベアトリーチェは君達三人を改めて見る。
すでにこの空間が薄れ、やがてベアトリーチェと共に消滅することが理解できる。
「――最後に、貴方達に伝えないといけない。私が背負った眠りの皇帝の運命を…。
そして、クリストファーの背後にいる者…」

「“この世の白”と交わした私の忌まわしき約束を」

◆   ◆   ◆

――それは今から20年と数年前の出来事。

かつて、ベアトリーチェと言う一人の魔族がいた。

彼女は力も無く、魔族としてはあまりに穢れのない心を持った純粋な女性だった。

ある時、彼女は一つの指輪を拾った。
それは遥かな古の時代。このムーヴェリアスを支配していたある王が持っていた
二対一つの指輪であり、その内の一つであった。

長い年月を経て、その指輪の存在は伝説となり
ある者はその指輪を手にすれば至高の財を手に出来ると称し
ある者はその指輪を手にすれば大陸を支配する力を得ると称した。
だが、彼女がその指輪を手にして得たものは、財でも力でもなく一人の男性。

魔族であるがゆえに人との関わりを持たずにいた彼女はあるとき
一人の男性と出会う。
その男性は指に彼女と同じ指輪をしていた。
奇妙な偶然から男性とベアトリーチェは互いに興味を抱き、やがて親密とな関係を築き
恋により結ばれることとなる。

ベアトリーチェに訪れたのは指輪を持った者同士は結ばれ幸せになるという伝承。
それは彼女に取ってまぎれもない幸せな一時であった。
しかし、悲劇はここから始まった。

歴史上、魔族と純粋な人間とが幸せに結ばれた結末はない。
ベアトリーチェもまた、些細な事から、己が魔族という事が周囲の人々や村々や知れ渡り
彼女を恐れた人々は迫害を与え、その果てに彼女は愛しい者を失う。

彼女自身は瀕死の重傷を負いながらも、ある場所まで逃げ落ちるが
その地にて、ついに命脈が尽き、その命を終えるはずだった。

そう、この“約束の地”の場所にて――。

『――指輪を持つ者よ。君はそのまま死にたいのかい?』

この地で死に掛けていた彼女はそんな不思議な声を聞いた。
まるで全てを見透かした神の如き者の声を。

『君は悔しくないのかい?いわれのない罪を受け迫害を受け
その果てに愛する者を失い、自身の命と更には
その身に宿る命すら失おうとしている事を――』

その声に対してベアトリーチェもまた、僅かながら同調の意志はあった。
何故、なにもしていない自分がここまで蔑まれるのか。
何故、他者と少し違うと言うだけで世界から居場所を取り上げられるのか。
だが、それ以上に――

『僕でなら、君の命を助ける方法がある。
そればかりか君に“王”の力も継承させてあげよう』

その声が言う王の力や、自分の命に対しては興味はなかった。
ただ、自分のお腹の中にいる命。あの人との子供だけは、なんとしても助けたい。
その一心から――。

『もしも、君が僕の計画に従い“ある約束”を叶えてくれるのなら
君の命、そして、君の中に宿る子の命も助けてあげよう――』

その言葉を真実に、ベアトリーチェは声の主と契約を交わした。

『では、君が持つ二つの指輪と
かつて初代眠りの皇帝ヒュプノプスが死したこの地、この場所
この約束の地の力を借りて、君に“王”の力を与えよう』

『かつて、この大陸を支配した魔王の力
“眠りの皇帝(ヒュプノプスカイザー)”の力と称号を、ね――』

ベアトリーチェが持っていた二つの指輪。
それはかつて初代眠りの皇帝たるヒュプノプスが自ら創り上げ
死するその瞬間まで身につけていた王の指輪。
故に、その指輪の中に眠るのは彼が持つ王の力の源。
【眠りの翼(ヒュプノプス・フェザー)】

そして、この約束の地は初代眠りの皇帝ヒュプノプスが死した場所
故に、その地に宿るのはかの王の膨大な魂と、その血肉と力。

ベアトリーチェはそれらの力を、ある干渉者の力を持って
継承し、その身に宿すことにより、二代目眠りの皇帝として最誕する事となる。

『さぁ、これで君の命と君が宿した命は助けてあげた。
あとは“僕との約束”を果たしてもうらよ』

ベアトリーチェと声の主が交わした約束。
それは“真なる眠りの皇帝”の誕生。

ベアトリーチェは眠りの皇帝の力を継承したが
彼女自身の魂は魔王の器としては不完全であり、
その為、彼女が宿した魔王の力も完全には程遠いものであった。

元来、この世界には“魂の価値”というものが存在する。
生まれながらにその者が英雄であるか否か、王であるか否か。
その素養と素質の全てを決する世界原則の一つ。

ベアトリーチェが宿した力は確かに王の力ではあったが
彼女自身の“魂の価値”はその王の領域には達しておらず
その為に本来の眠りの皇帝としての力は不十分であった。

故に声の主は“王の力”そして“魂の価値”
それら二つを兼ね備えた生まれながらの超越者、真なる王の誕生を願った。

そう、声の主には分かっていた。
今や眠りの皇帝の力を継承したベアトリーチェの子ならば
その魂の価値は生まれながらに王の領域に達し
“真なる眠りの皇帝”としてその力を受け継げるだろうと。

故にベアトーリチェにその矛盾を永劫背負うこととなった。
自らの子を救う為に、自らの子を魔王としてこの声の主に捧げるという矛盾を。

そうして、全ての計画は始まった。

声の主に従いベアトリーチェが結成した魔王の側近“聖十騎士団”

それは一人にして数千の魂の価値を持った十人の騎士よりなる
彼女のための騎士。

だが、その本当の目的はただの贄。

ベアトリーチェの子が眠りの皇帝を継ぐ際に
彼ら十人の魂を捧げ、その子をかつてない神祖の魔王の領域へと引き上げる為の。

ベアトリーチェは全て知って、なお騎士団を結成し計画を遂行した。

そして、本来ならばその計画は完遂されるはずだった。

だが、その計画は頓挫する事となる。

それは彼女自身から生まれた迷い、弱さ、そして――
大切な者達を護りたいという想いの決断から。

アルジェント、あるいはラインを眠りの皇帝として声の主に捧げる事。
そして聖十騎士団という自分を慕う騎士達を殺す事。

ベアトリーチェは苦悩の果てに、声の主との契約を破る決断を行った。

三騎士の叛乱。
その真相とはベアトリーチェが自ら起こさせたもの。

彼女の側近中の側近・ヴァルターはこの事を聞かされ
ベアトリーチェの願いの為に自ら謀反を起こした。

全ては声の主が望む真なる眠りの皇帝を降臨させないために。
そう、ベアトリーチェが死に、その息子も眠りの皇帝を継承する準備が
整っていない状態で、聖十騎士団の数人が死すれば
そこで声の主の計画は潰えるはずだった。

だが、ベアトリーチェ自身も予期せぬ事態が起こった。
それはエデンの介入により彼女自身は深手を負ったが生き残り、記憶を失うという事態。
そして彼女は再び一人の男性と結ばれ子を為した。

それがディゼル。

そして、ベアトリーチェが予期していなかったもう一つの事態。
それは声の主がベアトリーチェの裏切りを予測し
聖十騎士団の中に“自分の僕(しもべ)”を混ぜていた事。

それこそが第四騎士にして神の代行者の一人クリストファー=ベルナード。

クリストファーはベアトリーチェによって崩された
真なる眠りの皇帝降臨の計画を元へと戻し修復を行った。

ベアトリーチェを殺害し、己の傀儡とし
彼女の名前の下に再び聖十騎士団達を結成する。
そして、ベアトリーチェの息子たるディゼル、アルジェント達をその戦いへと巻き込んだ。

それがベアトリーチェより明かされたこの物語の“真実の一つ”であった。

◆    ◆    ◆

GM(ベアトリーチェ):「…クリストファー…。
彼の存在を見抜けなかったのは私の最大の失敗だったわ…」
言ってベアトリーチェは自らの浅はかさ、そしてその決断を悔いるように詫びる。
「…けれども、全ての元凶は私にあるの……。ごめんね…ディゼル…アル…サクス……」
ベアトリーチェの身体は薄れていく。もう彼女の魂は還るべき時を迎えつつあるのだ。

アルジェント:母さんの言葉がまるで水が浸みこむように入ってくる。
しばらくアルジェントはそれをただ聞いていた。
だが、母さんの体が崩れているのを見たとき、はじかれたように叫ぶ。
「母さん!謝らなくていい!謝らなくていいんだ!だって僕は―――」
さあ、言葉を遮るように事態を進めてくれ。

GM:了解。他のお二人も、もう伝える事はないよね?

ディゼル:うい。

GM:アルジェントが叫ぼうとした瞬間。

ベアトリーチェはただ優しい微笑みを浮べ返した。
その優しい笑みはアルジェントもディゼルもサクスも知っている
ベアトーチェという女性が持つ穢れなき心からの笑顔だった。

そして、夢の空間は破壊され、現実の世界へと戻る――。

GM(クリストファー):「…驚きましたね、アルジェント君までここにくるとは」
君達の目の前には教皇の玉座と、その前に立つクリストファーがいた。

アルジェント:「クリストファー…!」

GM(クリストファー):「その様子を見ると、どうやらベアトリーチェ様が
最後に何かお伝えしたみたいですね」
クリストファーは君たち三人を前にしても、いつものその冷静な態度を崩さずに発言する。

アルジェント:「俺はレストから託された…母さんから受け取った…。願いを…希望を…。
クリストファー、俺はお前を砕く!!」

GM(クリストファー):「これは面白いですね。シュトルムの追撃を防いだのは褒めますが
そんなボロボロな状態で僕を倒せると?」

アルジェント:「できるさ」
アルジェントは笑みをうかべる、シュトルムと戦ったときと同じ笑みを。

サクス:「主の不始末を掃除するのも、その大切な息子を護るのも部下の務めだ。
お前を始末させてもらう」

ディゼル:「母さんの優しさを受け継いだ僕らなら、ね…!」
そうアルジェントの言葉につなげる。

GM(クリストファー):「これはこれは、皆さん随分とやる気ですね。
でも知っての通り僕は争い事は苦手なんですよ」
彼はそう言って肩をすくめる。
「それに残念ながら、僕が君達と戦う時間はもうありませんよ。
すでにディゼルやサクスには伝えました。“時間は十分に稼げた”と」
その発言と同時に。

“――ごおおおおおおぉぉんッ!!!”

GM:それはこの地、一帯を揺るがす地震。
「これで“約束の地”への扉は開かれた。あの愚かなライン様のおかげで。
そう、これで―――」

「“僕の計画”は成就する!」

GM:その発言と同時にクリストファーは指を鳴らす。
それと同時に彼の背後にあった壁が全て砕け散る。
そして、そこに現れたのは眠りの皇帝が座する庭園。
更にその奥に見えたのは、巨大な門。
それこそがクリストファーが言う約束の地への扉であり
本来ならその扉は開かれ“約束の地”が見えているはずだったが――

「――馬鹿なッ?!」

GM:初めて、クリストファーはそう動揺の声を出した。
そう、目の前にあるのは巨大な門。だが、その門は閉じたままだった。
そして、その門の前にいたのはライン。
「…ライン様、これは一体どういう事ですか?
約束の地が開かなければ貴方のお母様の願いは叶いませんよ」
そう言ってラインへ近づくクリストファー。だが振り返ったラインはハッキリと宣言した。

「もうお前の人形劇は終わりだ。クリストファー」

GM:その発言と同時にラインの一閃がクリストファーの服を斬り裂く。
寸前で攻撃を回避したクリストファーは大きく後ろに下がる。
「…一体何を……ッ」
明らかな動揺と疑問を織り交ぜた台詞をクリストファーに対してラインに向ける。
「全てがお前の策通りでは無かったと言う事だよ。ここから先は僕と――兄さんの策がお前を上回る」
動揺するクリストファーを他所にラインはアルジェントの傍まで瞬時に後退し合流を果たす。
「――約束は護ったよ。兄さん」

アルジェント:「ああ、上出来だライン。もう一度言うぞクリストファー、俺はお前を砕く」

GM(クリストファー):「…どういうことだ……」
クリストファーはアルジェントとラインを見比べる、そして――彼は気づく。
この事態の真実に「!まさか、君達は…!」

アルジェント:「ようやく気付いたようだな」

GM(クリストファー):「…組んでいたと言うのかッ?!馬鹿な!
君があの時、教皇の間から逃げ出し、どうやってラインと組む機会があったッ?!」

アルジェント:「それでは、タネ明かしを始めようか」

それは遡る事、数時間前――
アルジェントのプレイヤーがGMに相談したシナリオ修正の展開が
これより明らかとなる。


◆幕間シーン 〜裏切りの果ての二人〜
ディゼル:ほふほふ、舞台裏きた(笑)

サクス:wktk

GM:深夜、多くの生き物が深い眠りにつくその時間帯にて
ラインは自室で静かに物思いに耽っていた。だが、そんな彼の部屋に誰かが来る。
扉を開けてではない。空間を渡ってきたのだ。
「…この部屋は子供の頃から変わってないからね。
確かに記憶が戻れば空間水で渡ることは可能だね、兄さん」

アルジェント:「そういうことだ、変わっていなくて安心したよ」

GM:ラインは静かに自分の後ろに渡ってきた君、アルジェントへと話しかける。
「それで何しに来たんだい?兄さん、いや――裏切り者が」
それはあの教皇の間での君の裏切りをハッキリと責めるラインの口調。

アルジェント:「騒ぐなよ、ライン。誰かに聞かれたら全てが終わりなんだ」

GM(ライン):「そうだろうね。今ここで兄さんが誰かに見つかれば
殺されるのは間違いないだろうしね」

アルジェント:「それだけじゃない。お前は、真実に気づけなくなる」
そう言いながら椅子の一つに座る。

GM(ライン):「…どういう意味だい?」

アルジェント:「話さなければいけないことは沢山ある。
まずは俺がここに来た目的から単刀直入に言おう。ライン、俺と手を組んでくれ」

GM(ライン):「………」
君のその突拍子もない、そしてあまりに愚劣な要求に対してラインは侮蔑の視線を持って返す。
「…僕が、組むと思うのかい?兄さん」

アルジェント:「思わないさ、“まだ”な…。
さて、まずは理屈から話そうと思うが、その前にお前に訊いておかなければならないことがある。
今、お前に指示を出している存在はいるか?」

GM(ライン):「…いるよ。だけどそれが兄さんに関係あるの?
あの人はもう兄さんも見捨てたんだよ」

アルジェント:「よく聞けライン。お前に指示を出しているその人物は…
クリストファーの人形だ」

GM(ライン):「ッ、なぜそんな事を言えるんだ!!」
それは侮辱された事への怒り。ラインは怒声を上げる。

アルジェント:「俺の予想が正しければ、間違いない。
まずお前に指示を出せる人物などそういないしな。おそらくは…母さんか?」

GM(ライン):「…そうだよ。僕は母さんのためにこの計画を進めているんだ」

アルジェント:「やはりな。ではライン、何故俺が総本山にいたときに
母さんは姿を見せなかったかわかるか?」

GM(ライン):「…さあね。そんなの母さんに聞けばいいだろう」

アルジェント:「クリストファーは恐れたんだ。
俺の記憶が戻っていることを知って、母さんが人形だと見抜かれることを」

GM(ライン):「………」

アルジェント:「現にクリストファーはお前の知らない行動をしている。
おそらくシアリーに糸が仕込まれていることはお前も知っているだろう。
だが、シアリーを使ってクリストファーが聖十騎士団殺しを
俺に指示してきたことは知っているか?」

GM(ライン):「?!クリストファーが…ッ!確かに糸を通したのは僕も知っていた。
けれどもそれは兄さんを僕達の仲間に迎える手段として使うはずだったのに…あいつッ」

アルジェント:「殺すよう指示されたのは4人。レスト、フェティ、サクス、そしてライン、お前もだ」

GM(ライン):「…僕も、だと…?あいつ、一体どういうつもりだ…ッ」

アルジェント:「奴はこの中でレストを最初に殺すよう言ってきた。
だが、おかしいと思わないか?レストは現騎士最強の剣士。
この中ではおそらく最も強いだろう。俺もフェザード城の時よりは強くなっているが
それでもまだレストに分があるだろう。本気で俺に聖十騎士団を殺させたいならこんなことはしない」

GM(ライン):「奴の目的は別にあると?
四人の騎士を殺せといったのも兄さんを誘うための罠…」

アルジェント:「そうだ。奴は俺が聖十騎士団を殺せても殺せなくてもよかった。
俺を『聖十騎士団を殺す』という方向に向けることが目的だったんだ」

GM(ライン):「話は分かったよ。確かにあいつは信用がならない…。
けれども、僕は兄さんも信用できない。兄さんは僕を一度裏切ったんだから」

アルジェント:「そうだな、確かに俺はお前を裏切った。
お前が俺に眠りの皇帝を継承させるために多くの命を奪い、シアリーを攫ったことが許せなかったから。
クリストファーが、俺とラインが繋がることを恐れていると気付いても
正直お前と手を組むというのは無理だと思ったさ」

GM(ライン):「………」

アルジェント:「だけど…少し前にシアリーが言ったんだ。
『生き残ったのだから、その命で少しでも何かを為す』と。
それで気づいたんだ、お前もまたそうなのだと。あの惨劇を生き残ったから
あの日砕けたパズルのピースを必死にかき集めているだけなんだと…」

GM(ライン):「………」

アルジェント:「その方法が正しいか間違っているかは、その後についてくるものだ。
だけど、俺がお前を見捨ててしまったら、お前が間違っていたときに
「間違っている」と言ってやれる者は誰もいなくなってしまうと…そう思った」

GM(ライン):「…そう……」
静かにだが、どこか寂しさを込めるようにラインは呟いた。

アルジェント:「確かにお前のやったことは許容できるものではない。
だけど、それではいそうですかと捨ててしまえるほど…お前と過ごした日々は安くはなかった」

GM(ライン):「…兄さん、僕はね…」言ってぽつりとラインは呟く。
「僕はただ…あの頃に戻りたかっただけだったんだ…。
母さんが死んで、あれが母さんではない別の何かだって事は薄々気がついていた…。
けれども、それで母さんの願いが遂行できて、昔のように僕と兄さんと母さんと
三人で家族に戻れるなら、僕はどんな計画にだって従うよ。
それこそ、兄さんが言う許容できない事だって、たくさんやってきた…。
それでも僕はただあの頃を、もう一度だけ戻りたかったんだ…」

アルジェント:「…ライン、これは俺の全くの予想だが…
母さんは眠りの皇帝の継承など望んでいないと思うんだ」

GM(ライン):「…そうだね。そうかもしれないね…」

アルジェント:「俺は自分のために多くの命が散ったことを知って愕然とした。恐怖した。
俺の知っている母さんは…そんな恐怖を俺にもラインにも与えるはずはない」

GM(ライン):「…母さんは優しかったからね…。人を殺すなんて、そんな事は出来なかった」

アルジェント:「俺はもう…母さんの口から「人を殺せ」なんて言わせたくはない。
お前はどうだ?ライン」

GM(ライン):「…それは僕も兄さんと同じだよ。
母さんが本当に望んでいる事をしてあげたい。それが僕達の務め…」

アルジェント:「母さんの肉体を破壊することになってしまうかもしれない。
だが、それでも俺は…クリストファーの野望を砕く」

GM(ライン):「………」
深く、息を出しラインは聞く。
「――それで僕はどうすればいいんだい?兄さん」

アルジェント:「今、クリストファーは湖の底に隠れている魚のようなものだ。
今はまだ、捕えることはできない。だから、俺もお前も奴の計画に乗った振りをする。
俺は奴の指示どおり聖十騎士団を殺すよう動き
クリストファーが母さんを使ってお前の意に沿わない指令を出した場合
お前は不満を見せるが渋々従うようにする」

GM(ライン):「…なるほど。確かにそれなら表面上は気づかれないね」

アルジェント:「計画が完成に近づけば、奴は必ずそれを求めて
多少、不自然でも強引に進めようとする。そのとき奴は必ず表層に出てくる。
そして、その最後の決め手を砕く。お前の判断が鍵となるだろう。
何が『最後の決め手』か…見極めるのはお前だ」

GM(ライン):「…分かったよ。だけどいいの、それは僕を信用しないと完成しない計画だよ。
兄さんは信じられるの?僕を」

アルジェント:「お前が俺を信じるのなら…俺もお前を信じる」

GM(ライン):「――そう、なら僕も約束しよう。
僕も兄さんを信じて、兄さんの信用に応えると」
言って静かにラインは手を出した。

アルジェント:右手のグローブを外し、その手をしっかりと握る。

GM(ライン):「母さんとはもう無理だったけれど…。
これが終わったら、また兄さんと昔のように戻れるかな…」

アルジェント:「戻れるさ。今度は、お前の好きなボール遊びをしよう」

GM(ライン):「ははっ。うん、約束だよ。兄さん」

アルジェント:「ああ、約束だ」

そうして、二人の兄弟は約束を交わし、今ここに共に戦う事を誓った。


 
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